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コラム:楽器は生きている

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ビオラの写真


この冬に知人の結婚式が決まり、私も6年ぶりに楽器(ビオラ)を弾いてみようかとぼんやりと考えています。しかし、6年間ケースにしまいっぱなしの楽器では、とてもじゃありませんが、立派な演奏などできません。楽器のメンテナンスが必要です。

弦楽器は当たり前ですが本体が木でできており、弦は現代ではスチール弦が一般的です。バロック時代には羊の腸を使った「ガット弦」が使用されていました。今でも古楽器愛好家には使われていますので、そのやわらかい繊細な音色を聴くことができます。で、スチール弦に話を戻すと、金属でできているため強度的には抜群です。弦の張力を高めることで大きな音を出すことができるようになりました。また、ガット弦よりも寿命が延びたため経済的でもあります。私たちアマチュア音楽愛好家にとって、願ったりかなったりの品であるといえましょう。

しかし、私の楽器のように6年間もほったらかしておいては、良い音を期待することはできません。弦は張力をかけている限り少しずつではありますが伸び続けますので、完全に伸びきった弦は寿命ということになります。つややかな音色など期待できません。弦を交換することが必要です。さらに弦を交換しても、交換したばかりの弦は非常に伸びやすく、すぐにピッチ(音高)が下がってしまいます。人にも品にもよるとは思いますが、私は1週間くらいで弦の伸びが安定すると考えています。

ここで登場するのがチューナーです。国際的に弦楽器のチューニングは「ラ(A)」の音を440Hzにすると定めています。しかし近現代になって、華やかな音色を求めてチューニングが少し上がって442Hzになることもしばしばあります。私たちは、チューナーというありがたいメカを使用して基準の音を決めるのです。ちなみに、なぜ「ラ」の音を基準にするかですが、一説によると赤ちゃんが生まれてきて最初に発する産声の音程が「ラ」だからということです。面白いですね。

さて、弦は伸びるものですから、オーケストラの演奏会で前半も後半も楽器のチューニングが行われるのはこのためです。弦楽器は交響曲を1曲演奏すると演奏の圧力で弦が伸び、ピッチが下がってしまいます。ちなみに管楽器は演奏で楽器が温まるので、逆にピッチが上がってしまいます。それを修正するために頻繁にチューニングを行って、オーケストラ全体のピッチをそろえるのです。

また、梅雨の時期のように高い湿度も弦楽器には良くありません。そもそも本体の木が水分を吸ってしまってよく鳴ってくれないのです。もちろん弦楽器本体には幾重もニスが塗られていますが、それは外側のお話です。内側は職人が削りだしたそのままの状態ですので、水分を吸収しやすいのです。そこで私たち弦楽器奏者は、ケースに乾燥剤を入れて常に湿度に注意しています。演奏をする際も、本番の何時間も前からホールに入って楽器をケースから取り出し、ホールの空気に慣れさせています。優れた奏者は演奏のテクニックだけでなく、楽器のコンディションにもとても気を使っています。私のように優れた奏者でなくても、せめてプロの真似事をと思って楽器の管理を行っています。

なんだか弦楽器を維持して演奏することは大変だなあ、という声が聞こえてきそうです。私の楽器ですら15万円しましたから、さらに弦楽器のハードルが高く思えてきます。しかし、うまく演奏できたときの喜びは何物にも代えられません。私の知人では「大草原の小さな家」のお父さんに憧れてバイオリンを始めた人もいます。「好きこそものの上手なれ」といいますがまさにその通りです。クラシック音楽に興味がなくても、バイオリンに興味がある方は意外と多いのではないでしょうか?

私の先輩後輩を眺めてみても、理系の演奏家はたくさんいます。いやむしろ理系の方が多いのではないかとすら思います。それは発音のメカニズムや楽器の構造、そして効果的な奏法といった、テクニカルな部分に理系の方は興味を持ちやすいためではないかと思います。あるお医者さんは80歳になってハープを始めました。その方が音楽の先生に言ったのは「先生、こんなに面白い楽器があるなら、なぜもっと早く教えてくれなかったのですか!」だそうです。いやはや、音楽の道は奥深いですね。

(文責 精密機械技術科 講師  田中 誠一郎)

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