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コラム:CDかレコードか

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最近では音楽はダウンロードが主流になっていて、CDを購入する人は減っているのでしょうか?私はもろにCD世代なので、今でも気に入った音楽はCDで楽しみたいと思っています。さて、そのCDですが、普及しはじめの頃はアナログレコードと比較していろいろ陰口をたたかれたものでした。特にその最たるものは、「CDはアナログ演奏が持つ倍音を記録できない」というものでした。

CDのサンプリング周波数は、標本化定理(アナログ信号をデジタル信号に変換する際に、どの程度の間隔で標本化(サンプリング)すればよいかを定量的に示す定理、サンプリング定理)により概ね20kHz前後の周波数まで記録できます。これはレコードに比べるととてつもなく広い音域になるのですが、それでもこの音域に入らない音が存在するのです。それが倍音なのです。

弦楽器や管楽器などの音を正弦波(サインウェーブ)成分の集合に分解すると、元の音と同じ高さの波のほかに、その倍音が多数(理論的には無限に)現れるのです。古来、合唱などでは、本来聞こえるはずのない高い音がしばしば聞かれる現象が知られており、「天使の声」などと呼ばれて神秘的に語られていました。これが倍音のことだと現在では考えられています。

この倍音を発見したのは、音楽家ではなく数学者なのです。1636年にフランスの数学者、マラン・メルセンヌにより発見されました。その後ベルヌーイによる波動方程式の解の発見、フーリエによるフーリエ級数による体系的な理論化がなされています。なんだか難しくなってきましたが、とにかくアナログな楽器が発する音をCDはカバーし切れていないというのがアナログレコード派の意見でした。アナログレコードであれば、変な言い方ですが倍音の録音は可能です。そこをCDはたたかれたのですね。

しかし、よほど高価な再生機器でなければ、アナログレコードの倍音も再生はできません。そもそも人間の耳に聞こえるのかどうか怪しい音も倍音の中にはあるのです。少なくとも私は倍音を聞きたくてCDを楽しんではいませんから、CDの高音質の方に軍配を上げます。デジタル録音が可能になって(この時点で倍音の録音は無理)、その恩恵を一番受けられたのがCDでしたから、私にとって音楽と言えばCD録音のことなのです。

やれレコードだの、やれ真空管アンプだのというオーディオマニアの意見を否定する気持ちは全くありませんし、できることなら自分も体験してみたいとも思います。ですが、歴史的名演奏を非常に安いコストで聴くことができるCDは庶民の味方です。CDがあったからこそ私はここまでのクラシック音楽・オタクになれたのだと思います。自宅の棚に並んだ数百枚のCDから、気分に合わせて聴きたい一枚を選ぶのは最高の気分です。とは言うものの、私のコレクションにはCD時代ではなくレコード時代の名演奏が多数紛れ込んでいるのですけど(笑)

 
CDジャケットの写真

「人類の至宝」フルトヴェングラー指揮のベートーヴェン「バイロイトの第9」(モノラル)

(文責 精密機械技術科 講師  田中 誠一郎)

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