18世紀にイギリスでおこった産業革命は、瞬く間に人々の生活を変えてしまいました。多くの工業製品のおかげで人々の生活は豊かなものになったのです。その中の一つにワットが発明した蒸気機関があります。蒸気機関は工場の動力源となり様々な工業製品を生み出してきましたが、一般の人々の目に触れたのは他でもない蒸気機関車です。
蒸気機関車は当時から今まで、子どもから大人まで幅広いファンを獲得しています。その中に一人の大作曲家がいることをご存じでしょうか?「遠き山に日は落ちて」でおなじみの旋律を作曲したドボルザークです。
ドボルザークの蒸気機関車熱は相当なものだったようで、毎日の日課が最寄りの駅まで散歩していき、駅に停車中の機関車の型式と製造番号をメモし、運転士の名前も聞き出し、ゆっくりじっくり眺めてから家路につくことだったそうです。もちろん本業である作曲の合間に行っていたといいます。
ドボルザークはこのように言ったそうです。「もし私が蒸気機関車を発明できたのなら、私が今まで作曲したすべての作品と交換しても良い」と。いやいや、ドボルザーク先生、あなたが作曲した作品群は音楽史に燦然と輝く素晴らしいものばかりですよ、と私は言いたくなりますが、ドボルザークは大まじめだったそうです。
現代でも電車や列車というのは、趣味の一つとして認知されており、欧米では「フィル・トレイン」なる組織も結成されています。「フィル」は「フィル・ハーモニー」と同じ「フィル」で「愛する」という意味があるそうです。
大作曲家が愛した蒸気機関車。凡人の私たちですら虜にしてしまうその存在は、もはや芸術作品といってもいいのではないでしょうか?それは匠の技を駆使して作られた「作品」であるからではないかと私は思います。自然にはないものをデザインし、創り出すことは技術も芸術も同じだと思っています。シミュレーション技術で導き出された新幹線の美しい先頭車両製作の際には、現在でも「へら絞り」という熟練の、それこそ芸術的技術が駆使されています。本校の卒業生が実践技術者として現場で多くの熟練の技を学び、卓越したエンジニアへと成長して芸術的工業製品を生み出してくれることを、私は願っています。
(文責 精密機械技術科講師 田中誠一郎)