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コラム:機械加工技術と芸術作品

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美術分野のメジャーな技法に「エッチング」という技法があります。まず、金属板の表面に皮膜を作ります。次に、針のような絵具で表面をひっかいて皮膜を除去し、金属部分を露出させます。そして、エッチング液(一般的には酸を使います)をかけて露出した金属部分を溶かします。このようにして金属版に刻まれた絵画を原板として版画が制作されるのですが、この分野の大家にレンブラントという美術家がいます。美術愛好家や高校の美術コースに進んでいる方は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

この「エッチング」という技法は、精密機械加工や半導体デバイス製造といった工業分野でも多く使われています。精密機械加工では、金属表面にマスキング処理(写真のネガのような皮膜を作ること)を施し、エッチング液をかけることで皮膜のない部分を溶かし、マスキング形状のみを残すことで精密な機械加工を実現します。半導体デバイス製造では、シリコンウェーハ表面に数10nm(ナノメートル:1nmは1mmの百万分の1)という微細加工を実現するため、液体の代わりに反応ガスを用います。最近では、半導体デバイス製造で培われた微細加工技術を活かして機械構造と電子回路を一つのシリコンウェーハ上に作り込んだ、MEMS(メムス:Micro  Electro Mechanical Systems)と呼ばれる超微細な精密機械が実用化されています。例えば、インクジェットプリンタのヘッド、圧力センサ、加速度センサ、ジャイロスコープ、3Dプリンターなどに使用されるガルバノメータなど、製品化も徐々に拡大しています。

さて、私が担当している特殊加工の授業でもエッチング技術の説明を行っているのですが、これまでの学生なら「うんうん」と頷いてもらえた「写真技術のネガとポジ」といった説明が最近の学生には通用しないようです。デジタルカメラが一般的に普及しフィルムカメラを知らない世代が増えてきたのですから当然と言えば当然ですね。そこで最近は「日焼け」を例にして説明をしています。肌にある模様の形をしたシールを貼って(これがマスキング)、日焼けをしたらシールの形が残るでしょう。この残したい部分以外を溶かしてしまうのがエッチング技術だよと。我ながら苦しい説明だとは思うのですが、最近の学生の理解度が高いのはこちらのようです。

エッチング技術は現代の欠かすことの出来ない重要な加工技術ですが、もとは昔からある美術分野の一技法だったわけです。この他にも、美しいステンドグラスや切子ガラスを作る際の接合技術(ロウ付)や研磨技術のように、工業技術の中には美術と密接な関係を持った多くの技術が今なお広く使われています。私はエッチング技術を学生に教えるとき「工業分野には、エッチング技術以外にも美術との距離が近い加工技術が沢山あることを知ってもらいたい、体験してもらいたい」と思います。また、これらの加工技術は美術分野では世界にたった一つの作品を作ることによって価値を生み出しているのに対し、工業分野ではこの技術を使って高機能の製品を量産することで価値を見出しているところに大きな違いがあると思っています。もしかすると優れた芸術家が考え出した新しい技法が、工業分野でイノベーションを起こすことがあるかもしれません。

本校では、四つの学科でエッチング技術以外にも様々な加工技術を学んでいます。もしかしたらものづくりの基本技術をマスターした技大卒業のエンジニアから、新しい作品を生み出す芸術家が生まれてくるかもしれません。皆さんも”もの作り”に関する様々な分野の技術を、我々と一緒に学びませんか? 県技大では、やる気・根気・元気のある学生をお待ちしています!

(文責:精密機械技術科 講師 田中 誠一郎)

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