今も昔も自動車に熱狂する人々は多くいます。それでも最近はエコロジー問題などもあって、その熱狂も若干下火になってきたかな?とも思います。しかし歴史的に見ると、「名車」と呼ばれる自動車が数多くあることも事実です。工業製品の代表選手のような自動車にはどのような魅力があるのでしょうか?
1886年にドイツのカール・ベンツにより発明されたガソリンで走る自動車は、瞬く間に発展を遂げ、1908年にT型フォードによりついに量産にこぎ着けました。これらの自動車はもちろん名車と呼ばれるにふさわしいと思いますが、どちらかといえばヒストリカルな意味合い、産業遺産とでも言うべき存在でしょう。
私個人の意見であると前置きしておきますが、一般的に言う「名車」とは、デザイン性と動力性能に優れ、かつその誕生の背景にエンジニアやドライバーのドラマがあるものだと思っています。その意味でも1950年代以降は名車の時代が始まったのではないでしょうか?
イタリア半島を1周する過酷なレース「ミッレ・ミリア」は、アルファロメオやフェラーリ、ランチア、マセラティといった多くのメーカーがその技術力を最大限まで高めて栄光を勝ち取ろうと切磋琢磨したレースでありました。またF1も盛んで、ピニンファリーナやジウジアーロ、ベルトーネといったいわゆるイタリア・カロッツェリアのデザイナーや、フェルディナンド・ポルシェ、エンツォ・フェラーリなど、エンジニアも歴史に名を残しています。そこには数々のドラマもありました。
またその後、昭和の時代には日本製の自動車からも名車が続々と誕生しました。またまた私個人の見解ですが、あえて4台を選んでみました。1台目はデザイン性に優れ、ボンドカーにもなったトヨタ2000GTです(図1)。世界何億人という人々がスクリーンを通してこの自動車にあこがれました。スポーツカーとして優れていると思うのは2台あって、まずはギネスの売り上げ世界一の記録を持ち、アメリカで社会現象にもなった日産初代フェアレディZです(図2)。もう一台は第2回日本グランプリで1周だけポルシェを抜いた日産・プリンス・スカイラインの流れを汲むスカイラインGT-R(初代、図3)です。そして、4台目として排気ガスの環境汚染対策で優れた技術のパイオニアとなった自動車で、厳しすぎてクリア不可能とまでビッグスリー(ゼネラル・モータース、フォード、クライスラーの3社)に言わしめたアメリカのマスキー法を世界で初めてクリアした、ホンダシビックを選びます(図4)。これらの自動車には「名車」たる開発のドラマを内包していて、現在に至るまで語り草になっています。
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図1 トヨタ2000GT | 図2 日産フェアレディZ |
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図3 日産スカイラインGT-R | 図4 ホンダシビック |
デザインは好みの分かれるところだとは思いますが、ロングノーズ、ショートデッキ(車体後部)にキャビン(居住部)がエンジンとの重量配分を考えて配置された自動車は美しいものが多い印象を受けます。同時に贅沢な印象も受けます。この自動車の「黄金律」とも言うべきデザインの理想は、ジャガーやフェラーリなどの名車の美しさの源になっていると私は思います。日本車でトヨタ2000GTを挙げたのは上記デザインの黄金律に最も則っていると考えたからです。
スポーツカーは速さが命です。フェアレディZはポルシェの半額でほぼ同等の性能を獲得したという点を評価しました。このおかげでアメリカを中心に世界でギネス記録になるまで大ヒットしたのです。スカイラインGT-Rは、実はフェアレディZと同じエンジンを積んでいるのですが、サーキット49連勝といういまだ破られることのない大記録を達成しました。デザインは見ての通りいわゆる「黄金律」には当てはまらないのですが、それでもスポーツカーだったのです。この2車は当時の若者のあこがれだったと聞いています。
自動車は世界的に台数を増やすにつれ、ついにはその排気ガスにより光化学スモッグをはじめとする公害の源になりつつありました。東京では光化学スモッグにより校庭で倒れる高校生がニュースになりました。そこに一石を投じたのがホンダシビックのCVCCエンジンです。副燃焼室と呼ばれる構造を用い、世界でいち早く環境問題に取り組んだことを評価しました。
名車はどれも愛好家に言わせれば「宝石のような」芸術性を兼ね備えた自動車ばかりです。しかも、芸術性が愛好家たちばかりに認知されてきたわけではありません。マツダの初代ユーノス・ロードスター(図5)のリアコンビネーションランプは、その高いデザイン性と機能性が評価されて、ついにはニューヨーク近代美術館に展示・永久収蔵されています。
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図5 ユーノス・ロードスター |
後にも先にも工業製品がこれほど人々を熱狂させたことはないのではないでしょうか?現代のスマホやコンピュータが次々に高性能になって多くの人を夢中させても、そこにはその目線を奪うような存在感があるとは思えません。自動車のような「芸術的」な工業製品が我が国日本からも多く輩出されているとは、なんと痛快な出来事ではないでしょうか?あの大戦から70年、日本のエンジニアは世界に誇れる「名車」を生み出すまでに至ったのです。そして今日も、日本のエンジニアは名車を生み出そうと日々努力しています。機会があれば、次の自動車のコラムでは、最近話題になっているペダルの踏み間違い事故や自動運転について書きたいと思っています。
(文責:精密機械技術科 講師 田中 誠一郎)